山椒大夫 森鴎外著

父に会いに行く旅の途中に人買いにさらわれ、母と生き別れ、奴隷にさせられた姉、安寿と弟、厨子王の物語。

安寿は厨子王を逃がし、見届けた後、自ら命を絶つ。

厨子王は逃亡に成功して出世し、母との再会を果たす。

なかなかに悲しい話だ。

特に人買いに巧みに騙され、売られていく描写、売られた先で、賃金も与えられず労働させられる描写はリアリティをもって訴えかけられる。

ああ、貧しい時代、実際にこういうことがあったんだろうなあ、と想像させられる。

今の貧困ビジネスにも通じるものを感じる。

無知で善良な人たちが、金の亡者たちに、身も心もかすめ取られてしまう。逃亡を計ろうとしたものには残酷なまでに罰を与え、逃げようとする気力を奪ってしまう。

安寿の献身的なまでに弟の命を守ろうとする姿が美しく、悲しい。

何故、安寿は一緒に逃げなかったのだろう。

弟の逃亡の足手まといになると考えたのか?

年頃の娘である自分は男たちの目に付きやすく、弟に危険を及ぼす可能性があると考えたのか?

山椒大夫に性描写はないが、恐らく、当時は実際に人買いにさらわれた女の子たちは、女衒たちに性の奴隷にさせられ、客をとらされる、といった事があったのだろう。

最近でも貧しい東南アジア地域では人買いがいて、子どもたちが売られていくというのを聞いたことがある。

安寿は男たちになぶりものにされた事で、自らの事は絶望し、弟を逃がすことだけに命を懸け、死を遂げたのか。

はたまた、処女の純潔を守るために自決したのか。

どちらにしても凛とした安寿の生き様は胸をうつ。