映画『グリーンブック』

2019年度アカデミー作品賞受賞作品。

すでに富と名声を得ている黒人の天才ピアニスト、ドク。

キャバレーのボディガードの職を失ったイタリア系移民の白人、トニー。

ドクはトニーを運転手として雇い、黒人差別の色濃いアメリカ南部へコンサートツアーに旅立つ。

それは才能を超える『勇気』をもつ為の旅。

性格も人種も、社会的地位も真逆の二人が少しづつ、お互いを分かりあっていく。

ドクはインテリで寡黙。孤独を内面に抱えていて几帳面。

トニーは妻と子供二人、近所には親戚が住んでいて賑やかな家庭に育ち、腕っ節が強く、粗野で短気でおしゃべり。口が立つことから、トニーリップと言われている。交渉事もうまく、小狡さも合わせ持つ。

お高くとまっているドク。がさつでうるさいトニー。気まずい旅の始まり。

そんな二人を結びつけたのは音楽。

コンサート会場。ドクの指先から奏でられる美しく繊細な音色。トニーは息をのむ。

水色の車。運転席。ラジオから流れる陽気なブラックミュージック。ノリノリのトニー。後部座席。初めて聞く、楽しげな音楽にドクは驚いている。

コンサートツアーに呼ばれながらも、黒人のドクへの扱いはひどい。レストランに入れて貰えない。控室はゴミため。トイレは不衛生な掘っ立て小屋。洋品店では試着も出来ない。トニーはあまりの扱いに苛立つ。しかしドクは内面に怒りを感じながらも、毅然としていて誇りを失わない。

ドクへの酷い扱いに、思わず警察官を殴りつけてしまうトニー。二人は牢獄に入れられる。怒りを抑えながら、トニーを諌めるドク。トニーはあれだけの侮辱にあたりまえだろう、という態度。しかし、差別に暴力で対抗する手段をドクは認めない。

ある日、トニーは「自分の方がよっぽど黒人のことが分かっている」と言ってしまう。ドクは怒って車を降りてしまう。戻るように促すトニーに珍しく声を荒げて叫ぶ。

「白人でもなく、黒人でもない私はいったいなんなんだ!」

ドクは白人から差別され、黒人からもその格好から生意気に見られ、仲間に入れてもらえない。

旅の終わりのツアー。入れてもらえないレストラン。悲しげに毅然とした態度のドク。怒りをこらえるトニー。

二人はコンサートをボイコットして場末のジャズバーへと消える。騒然とした中、ジャズに合わせ踊り狂っている黒人たち。

弾いてこい、とうながすトニー。ドクは粛然と叩きつけるようにショパンを弾く。静まるバー。湧き上がる歓声。そして、見知らぬ黒人たちとドクのジャズセッションが始まる。

差別差別、と肩ひじの張ってない映画。辛いながらも何かフワッとした感じで差別を描く。トニーの突発的な火花のような怒りとドクの氷のような冷静な怒り。だけど、全編を包むのは音楽で、笑いと救済がある。素晴らしいロードムービー