この本は直感(著者は第1感と呼ぶ)の有用性を説いた本だ。
高度な理論より、直感の方が正しかったりすることがある。
しかし、直感を理論で説明するのは難しい。
日常のささいな出来事から、直感とは何か、ということを問いかけている。
適応性無意識
直感‥一気に結論に達する脳の働きを、心理学用語で「適応性無意識」と呼ぶ。
人類が厳しい生存競争を勝ち抜いてこられたのは、わずかな情報で、素早く適切な判断を下す能力を、発達させてきたからである。
しかし、様々な情報や科学的データ、また欲が絡んできたりしてしまうと、その直感も曇ってしまう。
ある美術館に、美術商からクーロス像という古代ギリシャの立像が持ち込まれた。
美術館は色めき立ち、早速、立像のかけらからサンプルを取り1年以上に及ぶ科学的な鑑定を行った。
調査の結果は数千年前に作られたものだろう、という結果が出た。
しかし、美術に目利きのきく幾人かの専門家たちは、立像の第1印象に違和感を感じていた。
結果的にそのクーロス像は1980年代前半に作られた贋作だった。
このように直感が科学的データーを上回ってしまうという例を、著者はいくつも紹介してくれる。
輪切り
著者が第1感に対して重要視しているのが『輪切り』だ。
『輪切り』とは、さまざまな状況や行動のパターンを、ごく断片的な観察から読みとること。そして、それを瞬間的、かつ無意識のうちに認識する能力だ。
ワシントン大学のジョン・ゴッドマン教授は、離婚しそうなカップルをすぐに見分けることが出来るという。
注目するのは二人の「防衛」「はぐらかし」「批判」「軽蔑」の表情や発言。
なかでも「軽蔑」の感情に最も注目する。
「軽蔑」の感情は離婚につながるそうだ。
『輪切り』はこのようにある部分に着目するということ。
ミレニアムチャレンジ02
この本で特に面白かったのは、ならずものの司令官パン・ライバーのエピソードだ。
ミレニアムチャレンジ02というペンタゴンが行った軍事演習があった。
青チーム、赤チームに分かれて疑似的に戦争をする。
青チームには軍事評論家や専門家やソフトウェアのプロを大勢集め、史上最強の知的リソースが与えられた。
赤チームはベトナム戦争で最前線で活躍したパンライバーを司令官として、経験と勘を重視。
「指示は出すが諸君の行動は支配しない」がモットー。
結果は赤チームの圧勝。
勝利の後、パンライバーは「相手は手順やプロセスばかりに目がいって全体をみようとしなかった。問題をバラバラにしてしまうから意味が見えなくなる」と呟く。
余計な情報はただ無用なだけでなく有害でもある。
顔はペニスに似ている
「表情記述法FACS」というものがある。
これは人の表情を読み取って、感情を解釈するルールだ。
これを開発したエクマンとフリーセンは、顔の筋肉について医学書で調べ、43種類の動きを確認した。
ピクサーやドリームワークスも、この方法を取り入れている。
エクマンの師匠である破天荒な心理学者のトムキンスは「顔はペニスに似ている」と言ったそうだ。
顔にも心があり、無意識化で現れる表情にこころが現れる。
人は相手の表情を読み取り、心を理解する能力があるという事だろう。
情報が氾濫している現代、より早い判断を求められる。
そんな時に求められるのは、正しい経験と環境から生み出される直感なのだろう。