アントニーとクレオパトラ 小田島雄志訳

ローマの三執務官の一人、アントニーとエジプトの女王クレオパトラの恋と、それを中心としてローマの権力争いを描く。

大シーザー亡き後、ローマはアントニー、シーザー、レピダスの三人で治めていた。武勇と人徳を兼ね備えていたアントニーだったが、クレオパトラとの恋に溺れ、シーザーとの権力争いに敗れてしまう。

以下、印象に残ったセリフ

「平和も、平穏無事に飽きがくると、血を流してでも激烈な変化を求めるようになる」アントニー

平和を保つことが出来ない人間の欲情。

「人間、自分のことはわからぬもの、おのれの害になるものをも祈り求めます、それを賢明な神々はわれわれのためを思って拒否なさるのです」ミニークラティー

正義の祈りが聞き入れられないというポンペーに対してのセリフ。自分の欲から来る祈りは聞き入れられないよ、という深いお言葉。正義も悪も人間が自分の側から決めていて、神の視点からみたら、そんなことは分からない。

「『しかしながら』はまるで牢獄の番人、あとから極悪人がついてくる」クレオパトラ

使者が『しかしながら』という言葉を使おうとして、嫌な知らせを聞きたくないので、それを制してのセリフ。わがままな女王だが、言い方がおしゃれ。

「いいか、おれにとっては利益が名誉に先立つのではない、名誉が先なのだ」ポンペー

三執務官が一同に会している今を狙えば、世界を手に入れることが出来るとけしかける、家来のミーナスへのセリフ。『名誉』を『信用』という言葉に置き換えれば、商売にも役立ちそうなセリフ。

「敏速を見てもっとも感嘆しほめそやすのは油断と決まっているでしょう」クレオパトラ

アントニーもいうように『怠慢』へのいましめ

「時は知らせを産み落とす陣痛の苦しみにあるらしい、一分ごとに新しい知らせを産み落とす」キャニディアス

風雲急を告げるシーザーとアントニーの戦局をみての副官の言葉。おしゃれでかっこいいセリフ。

「勇気が理性を食いものにしはじめると、おのれが戦う剣までくいつくしてしまう」イノバーバス

情勢が悪化する中、尚、自暴自棄的な奮闘を誓うアントニーを憂えてのセリフ。英雄的な武官としては魅力的だが、多くの部下を抱える指揮官としては誤っている。

「小さな子供もいまでは大きな大人と肩を並べるのだ、すべては平等になり、優劣の差は消え失せ、夜ごと訪れる月のもとに、きわ立つものは何一つ残っていない」クレオパトラ

アントニーの死を看取ってのクレオパトラのセリフ。死はすべてものに平等というクレオパトラの死生観。

どちらも激情型のアントニークレオパトラ。だからこそ、激しく恋に落ち、劇的にもなる。しかし、少し冷めた観客には暑苦しく感じてしまう主人公でもある。