テンペスト 小田島雄志訳

テンペスト「嵐」という意味。この「テンペスト」という響きというか、語感はすごくいいなあと思う。シェークスピアの作品は原題そのままのほうが、カッコイイと思う。ハムレット、オセロー、マクベス。響きが理屈抜きでカッコイイのだ。小学生男子が、訳の分からない言葉を何度も叫んでいるような、その言葉をなんども口に出していってみたくなるような、独特の響きを特にこのテンペストには感じる。そう考えてみるとシェークスピアは内容よりも響きを大切にする。小説家、哲学者というより、詩人、アーティスト、ミュージシャンみたいな人だったのかなあと思う。登場人物でいえば道化のような人だったのかなあと想像する。

テンペストの話の内容はミラノ大公だったプロスペローが、弟の裏切りによりナポリ王に国を奪われる。そして、不思議な魔力によって、裏切った弟やナポリ王に復讐するという復讐劇だ。妖精やら怪物やら出てきてなんでもありのファンタジーでである。ヴィジュアル、音楽的要素の強い作品だ。一度、英語の本格的な劇をみてみたい。

「もともとおまえの性質には、いい人たちがとてもいっしょに暮らせないようなよこしまなところがあった」ミラン

悪魔的な怪物キャリバンに対して、プロスペローの娘で美しく清楚なミランダが言ったセリフ。なかなか差別的なセリフだが、今の現実世界と照らし合わせても、悪人を排除してしまう人間社会がある。

「たしかにことばを教えてくれたな、おかげで悪口の言いかたは覚えたぜ。疫病でくたばりやがれ、おれにことばを教えた罰だ」キャリバン

プロスペローとミランダにむけて放ったセリフ。言葉の恐ろしさの部分。言葉は使い方によって毒にも薬にもなる。

「気やすく得たものは気やすくあつかわれるものだ」プロスペロー

惹かれ合うファーディナンドミランダを見てのプロスペローの傍白。格言。特に女性に心に留めておいてほしい。

「この気高いお姿に卑しい邪心が宿るはずはありません、醜い邪心がこのように美しい館をもったとしても、善良な魂が争ってそこに住みつきます」ミラン

ファーディナンドに疑いの目を向けるプロスペローに対し、ミランダが言ったセリフ。内面が外側にも影響を与え、外側が内面にも影響を与える。

「彼らの非道な仕打ちは骨身にこたえてはおる、だが、おれは激しい怒りよりも気高い理性に味方しようと思う」プロスペロー

復讐をとげ、後悔と反省をしている相手にたいしてのセリフ。許しとプロスペローの強い理性。人間賛歌。

「この三人は私の物を盗んだのみならず、この悪魔の私生児めは、他の二人と共謀して、私のいのちまで盗もうとした。その二人は、ご存じのはずだが、あなたの召使いであり、この悪魔の化け物めは残念ながら私の下僕だ」プロスペロー

悪魔の下僕はキャリバンをさしており、二人というのは、キャリバンと結託してプロスペローの命を奪おうとした、道化のトリンキュローと酔っ払いのステファノ―を指している。トリンキュローとステファノ―はナポリ王の家来だったようだ。深読みすると、キャリバンはプロスペローの復讐心などの怒りの心そのもの、トリンキュロー、ステファノーはナポリ王や、アントーニオの邪心そのものともいえる。プロスペローは彼らに岩屋に入っているように命じ、なかをきちんと掃除するように命じる。決して殺しはしない。その悪魔的なものたち、や考えにも救済と許しを与える。シェークスピアは彼らのおちゃらけの部分、笑いの部分の良さを分かっていて、それを包括する愛情をもっている。