冬物語 小田島雄志訳

幼馴染で親友のシチリア王とボヘミア王ボヘミア王シチリアの地に長期滞在中、シチリア王は自分の妻とボヘミア王の仲を疑い、嫉妬と疑念を募らせてしまう。結果として友情を失い、妻と息子の命を失い、生まれたばかりの娘も失い、シチリア王は絶望と後悔の念にかられることとなる。16年後、ボヘミアの地で、羊飼いの娘と、ボヘミアの王子が恋に落ちることから、再生の物語が始まる。

二部構成になっており、1部が崩壊の物語、2部が再生の物語になっている。人を疑うことから人を信じることへのお話ともいえるのではないか。

以下、気になったセリフ。

「今日という日が明日もくり返され、二人はそのまま永遠に少年であると思っていました」ポリクシニーズ

ボヘミア王のポリクシニーズシチリア王の妻、ハーマイオニに少年時代を語るセリフ。二人の王のみずみずしく、毎日が無我夢中で、純粋な心の少年時代が描写されている。

「あのような生活を続けておれば、そして私たちの弱い精神が強い情熱にあおられてのぼせあがることがなかったならば、私たちは堂々天に向かって『無罪です』と主張しえたでしょう、つまり、アダム以来の原罪とは無縁であったはずです」ポリクシニーズ

これも二人の純真さをあらわした言葉。

「おほめの言葉で私を満腹させて、食用にする家畜のように」ハーマイオニ

シチリアの王妃、ハーマイオニの高貴だが、ユーモアもある明るい性格が見受けられる。

「だがそれは恥さらしな役だ、やじり倒されて墓場へ退場となろう」リオンティー

妻の不貞を疑うこころが芽生えだしたシチリア王の言葉。まだ、このころは自分を客観視し正気を保っている気がする。

「饒舌が役に立たぬとき、無邪気な沈黙はなによりもひとの心を動かすものです」ポーリーナ

格言

「ある人々に楽しみを与え、すべての人々に試練を課し、善人の喜びともなれば、悪人の恐怖ともなる私、間違いを起こしたり解きほぐしたりする『時』と名乗って翼を使わせていただきます」時

『時』を登場させる天才的な発想。この『時』をどんなビジュアルにするかは演出家のセンスが問われるだろうなあ。

「ただ楽しさだけに心を向ければいい。神々でさえ、恋におちいるときは、けだものの姿をおとりになるのだ」フロリゼル

身分の違いという弊害をお互いに認識し、それがあるからこそ、目を背けるように恋に没頭したいという願望。欲望の塊の人物が言ったセリフではないからこそ、意味がある。

「権力っていうのは頑固な熊だけど、お金を餌にすれば鼻面とって引きまわすこともできるんだ」道化

珠玉の名言

全体的に何かグリム童話を長編の大河ドラマにした印象だった。