じいさんばあさん 森鴎外著

庭先、凛とした姿勢で木刀を振るじいさんの伊織。

ふう、と息をつき縁側に座ると、ばあさんのるんが出てきてうちわを扇ぐ。二人は恋人のように仲がいい。近所のひとの話では、兄妹だろう、という噂もある。

なぜかと言えば、仲はいいのに礼儀が良く、夫婦にしては少し遠慮がみられるからだ。

このじいさんとばあさんが松平家武家屋敷に引っ越してくることから、話が始まる。じいさんとばあさんは朝早く近所にある菩提寺、松泉寺に墓参りに行くことがある。

生きていれば今年で39歳になる息子がそこに眠っている。じいさん、72歳、ばあさん71歳。

二人は伊織が30歳の時に出会い結婚した。江戸時代には晩婚と言える。

るんは武家屋敷に14歳から召使いとして遣え、14年間甲斐甲斐しく勤め上げた。美人と言うわけではないが聡明な働き者。

いつも手を休めることがない。伊織は美男子で武芸に優れ、文芸にも親しむ。癇癪もちなのが欠点。

るんは伊織を愛し、尽くした。伊織の祖母に対しても丁寧で、自分の親のように接した。若いうちからの丁稚奉公がるんをキビキビとした気の利く働き者にしたのだろう。そんなるんのおかげで伊織の欠点だった癇癪も影をひそめるようになった。

るんが臨月の時に、伊織が江戸に出向きつまらない揉め事に巻き込まれてしまう。

借金をして買った刀のお披露目会にその借金をした相手を呼ばなかった。そのことに金を貸した男が腹を立て、わざわざこれみよがしにお披露目会の日に伊織の元を訪れ、悪態をつく。

それに腹を立てた伊織はその相手の額を、買った刀で切り付けてしまう。その相手は数日後に死んでしまった。

この事件が原因で、伊織は越前国に左遷。出世の道は閉ざされ、家族とも引き離されてしまう。武芸を教えながら静かに細々と暮らすこととなった。

るんは子供を5歳の時に失い、伊織の祖母も力の限り介抱し看取り松泉寺に葬った。そして黒田家に奉公に行き四代に渡り奥に仕え、31年間勤めあげた。この間もるんは松泉寺に金を納め香華を絶やすことがなかった。

伊織は恩赦で江戸に帰ることを許され、二人は37年ぶりの再会を果たす。

●感想

正直に言って小説の題材になるか?というぐらい地味な話だ。

肝はるんの慎ましさ、逞しさだと思うが、短編ゆえ、そこも坦々と事実だけが書かれ、細かな描写はない。伊織がキレて切り付ける所だけ、妙にリアルに描かれている。

じいさんばあさんの穏やかな描写から、過去に遡り、また現在に帰っていくという映画のプロットを読んでいるような気がした。この構成はすごくいいように思う。

ただ映画にしたとしても地味すぎる題材ゆえ、かなり手練れの脚本家が書かないと難しい気がする。