銃~中村文則という人はなかなかやっかいな人である

中村文則のデヒュー作、銃を読んだ。

この人の作品は結構読んでいる。

大手を振って大好き!とは言えないが、気になる。

心臓音のような独特の文体に引き込まれてしまう。

中毒、ドラッグみたいな作品をかく人。


偶然に銃を拾った男のはなし。
銃を拾ったときから人を撃つまでの過程。

それを、ひたすら主人公目線で淡々と描いていく。

徹底的にディティールにこだわり、あくまで主観を客観視することを貫く。

一見、ハードボイルド風のクールなかっこつけじゃん!

とも思うがナルシスチックなところはない。

エンターテーナーなところもなく『ただひたすらに自分』である。

主人公の心のなかを淡々と描いているが、実際の行動と過去、おかれている状況を列挙してみる。

  • 川原で死んでいる男をみつけ拳銃を拾う
  • 大学に通っている
  • 勉強はよくできる
  • たばこをよく吸う
  • ケイスケというナンパ友達がいる
  • 普通の顔のセフレがいる
  • 両親とは血の繋がりがない
  • 施設にいたことがある
  • 実の父親が入院していて死にそうである。そこに訪ねていく
  • ヨシカワユウコという可愛い子が気になっている
  • となりのアパートの女が息子を虐待している
  • 刑事がアパートに訪ねてくる
  • 虐待している母親を尾行する
  • 猫を拳銃でうつ
  • 電車でマナーのない男を撃つ

こうしてみると、なかなかに数奇な運命。

だが、いるかもしれないと思わせる絶妙な設定といえる。

サッカーでいえば絶妙なポジショニング

いい位置にいる!というか。

 

序盤戦は淡々としすぎて、いちいち細かい心理描写にイライラした。

一向に話の進まないスピード感に。

しかし刑事が出てからが俄然面白くなる。

前半戦の心理描写はこの緊迫感を生ますための前振り、地道な作業だったのかと思わせる。

なかなかにドラマチックで『序破急的』な展開なのだ。

刑事との対決は『罪と罰』のラスコリー二コフと予審判事とのやりとり、を思わせた。

 

もしも、腹のたつ人間がいて、そのときに銃があったら‥

誰もが思う願望からはじまってるのでは、と思う。

 

その妄想を徹底的にディティールにこだわって描いた。

共感が持てるのは、この男が殺したいと思う相手は、誰もがイヤだなと思う人物だというところだ。

児童虐待をする親。

電車で迷惑行為をする輩。

と、至って真面目な正義感である。

かといって俺っていいヤツだろ、ってとこはださない。

若さの情熱とかではない。

知性の高い老獪さを感じる。

計算臭のない計算とでも言うか。

独特。なかなかやっかいな人である。

 

この作家は実は老獪なエンターテーナーなのではないか。