ピープルスキル ロバート・ボルトン著

この本は人間関係をうまくやるためのhow to本だ。

著者は企業や学校でコミュニケーションスキルを教える経営コンサルタント。
とはいっても、人心掌握術や人を操るといった、立身出世の為の、戦略術ではなく。あくまで人との関係を円滑に進ませるノウハウを教えてくれる。
著者も人間関係には散々に悩まされて生きてきたらしい。だからこそ、不器用な人の気持ちが分かるそうだ。
 
大きく分けて3つのスキルを紹介してくれる。
 
●傾聴スキル‥相手の言い分を本当に理解する為の方法。
 
●自己主張スキル‥相手に配慮しながらも、自らの要求を満たし、権利を守るための方法。
 
●対立解消スキル‥対立につきものの感情のもつれに対処するための方法。
 
この3つを軸に、古今東西の哲学者、作家、宗教家、科学者の言葉を参考にしながら、
円滑な人間関係をつくるために分かりやすく説明してくれる。
 

●傾聴スキル

 
傾聴スキルは簡単にいえば、相手の話を聞く、ということである。人間は起きている時の70%はコミュニケーションに費やされ、
その70%のうちの45%は聞くことに割いている。だからこの聞くという行動がいかに大事かという事になる。
 傾聴スキルは3つのステップが必要なそうだ。
 
●向き合いスキル~集中して話を聴くためのスキル
・真剣な態度を見せる
・適切な動作を示す
・アイコンタクトをする(視線を合わせる)
・集中できる環境をつくる
 
●うながしスキル~話をうながすためのスキル
・ドア・オープナー(話のきっかけ)を与える
・最小限の刺激を与える
・質問を減らす
・相手に気を配りながら沈黙する
 
●反映スキル~相手の主張をより深く理解し、理解していることを伝えるためのスキル
・言い換えを行う
・感情をくみとり応答に反映させる
・真意をくみとり応答に反映させる(感情を話の内容に結びつける)
・相手の話を要約する
 
 
これらを例文も交えながら分かりやすく説明してくれる。
この傾聴スキルを僕が印象に残った点でまとめると、相手が本当に伝えたいことを理解しようと努力する、ということだ。
それは言葉に発していることだけでなく、ボディランゲージや、声の大きさ、速度によっても現れる。心理学者のようであれ、ということ。
そして、最も重要なのは反映スキル、あなたの言いたいことはこういうことですよね、という確認作業を行うということだ。これにより勘違いや思い違いも防ぐことが出来、相手へも聞いてくれているんだな、という安心感を与える。
相手の身になって考えなさいということだろう。そして、それを相手に伝える、言葉でも、ボディランゲージでもいい。
相手に真摯に対応するという事だと思う。
 
全15章のうち7章をこの傾聴スキルに割いているとこを見ると、著者は『聴くこと』を重要視しているのだろう。
 
 

●自己主張スキル

 
著者によると自己主張とリスニングは陰と陽の関係にあるそうだ。活発なコミュニケーションを取るためには、リスニングスキルで相手の意見を聞く、相手を理解する、だけでなく、自らの感情、要求、願望も相手に伝えなければならない。
人にはみな守るべき個人空間がある。個人空間を守りながら他人に影響をおよぼす建設的な方法を指導するのが自己主張トレーニングだそうだ。
自己主張を服従、攻撃の間に位置すると考えると理解しやすい。
 
例えば、満員の映画館で、ふしろで大声で話している人がいるとしたら、どう対応するか。
 
a-何も言わず黙って我慢する(服従型)
b-振り向いて「少しは他人の迷惑も考えろよ。今すぐ話をやめないと、係の者を読んで外に出してもらうぞ」と怒鳴る。(攻撃型)
c-振り向いて話している人の眼を真っすぐ見ながら「あなたの話し声が気になって映画を楽しめないんですが」と言う(自己主張型)
 
という具合だ。
 
人はつねにその型の対応ととるわけではないが、どれかに偏る傾向があるという。著者は自己主張型の対応を勧め、このスキルを磨くよう指導する。
 

自己主張スキルは

A 相手の問題行動
B その行動が自分の生活にもたらす結果
C それに関する自分の感情
「AするとBだから私はCと感じる」と伝える。
 
 
Aに関するステップ
相手の問題行動を客観的に説明する。
・あいまいな言い回しを避けて、明確に述べる。
・行動説明に限定し、推測を排除する。
・断定的な判断を避け、客観的な説明を心がける。
・行動説明はなるべく簡潔にする。
・必ず本題について自己首領を行う。
・自己主張の相手を間違えてはいけない。
 
 
Bに関するステップ
自分にどういう影響があるか具体的に述べる。
 
自己主張メッセージが効果を発揮するのは3つの要素の中でもこの部分に負うところが大きい。
 
「目に見える具体的な影響」を伝えることが一番説得力がある。
 
Cに関するステップ
自分の感情をはっきり表現する。
相手の行動で迷惑をこうむったときに『真っ先に』私はどう感じたか、と自問してみる。→一次感情→自己主張メッセージの中で表現すべき感情。
 
自分の感情を知るには?
1素直に自分の感情を耳を傾いてみる。
2体の声に耳を傾ける。
3感じている気持ちを表に出す。
 
慣れるまでは、たどたどしい表現になってしまうが、訓練をつむことにより、より自然な表現が出来るようになるそうだ。自己主張が出来るようになると、自信に溢れた態度をとることが出来るようになる。
 
 

●対立解消スキル

 
人間は生きていくうえで対立は避けられない。対立があるからこそ創造性も生まれるそうだ。
ここでは、傾聴スキル、自己主張スキルを応用し、対立解消スキルを紹介してくれる。
 

・対立解消法

 
対立は感情的な側面と実質的な側面に分けて考えれば対処しやすい。
 
まずは感情的な問題を重点的に処理する。相手が感情的になっていれば、冷静な話し合いが出来ない。
 
だから、まず
 

・敬意をもって相手に接する。

・相手が満足するまで話を傾聴し、それを自分の言葉で言い換える。(傾聴スキル)

 
そのあとで
 

・自分の意見を簡潔に述べる。

 
どこかで聞いた、クレーム対応の仕方にも似ているな、と思った。
 
 
そして、著者がさらに前へと勧めるのが
 

・協調型問題解決法だ。

 
これは要求が対立したときにお互いが納得できる解決策を一緒に見つける方法。(ウインウイン式)
妥協はお互いに負けだが、この方法はどっちも勝ちにできるそうだ。
 
 
この方法はまず、
 
1 要求という点から問題の本質を明らかにする。
「お互いを尊重しそれぞれの要求を大事にしよう。我々は絶対に理解し合える」
 
 
2解決策についてブレインストーミングを行う。
「私はお互いの創造的思考を尊重しているし、協力すればさらに効果的に共通の問題に対処できると信じている」
 
 
3当事者双方の要求をもっとも満足させる案を選ぶ。
「私はお互いの要求が満たされることを願っている。またお互いの独自性を否定する行為をするつもりはない」
 
4誰が何をどこでいつまでに行うか計画する。
「一緒に決定を下して計画を練り、お互いの要求を満たす為に助け合おう」
 
5計画を実行する。
「お互いに行動を変えて生活を充実させ、関係を改善する力をもっている。お互いに交わした約束は言葉だけでなく行動でもあらわされる」
 
6問題可決のプロセスを評価し、後日解決策の効果を検証する。
 
 

●スキルを超えた大切なもの

 
そして著者は最後にコミュニケーションにおけるスキルを超えた最もだいじな3つの要素が大事だと説く。
 
誠実さ
自分の感情、要求、考えなどを包み隠さず正直に表現する事。
 
無私の愛
 
余計な干渉をしないで相手をありのままに受け入れ尊重し、支えること
 
共感
心から相手の言動を受け入れ、相手の観点から理解する
 
 
コミュニケーションスキルを適用することにより、この3つの「姿勢」が強化されると著者はしめくくる。