「慰安婦」問題とはなんだったのか 大沼保昭著

この本は慰安婦問題の解決策として、95年に設立された、アジア女性基金の理事を務めた著者が、基金の設立の過程、問題点を中心に抽出し、慰安婦問題の概要を伝える。

アジア女性基金慰安婦問題を解決する為に設立された財団法人で、日本国政府からの出資金と、国内の募金をもとに設立された。

目的はアジア各地の元慰安婦に対して、首相の謝罪文と、お金を渡すこと。ただ、この基金はあくまで政府からの直々の謝罪と、慰謝料を目的とする左よりの考え方の人と、慰安婦問題自体をなしとする、右寄りの人の板挟みとなり、活動が困難を極めたようだ。特に韓国の慰安婦の人達は、市民団体の挺対協が強力に援助しているので、 挺対協 が求める日本政府による慰謝料でなければ、受取らないという方針の為、基金のお金も謝罪文も拒否するということがおきてしまった。

著者の大沼さんの考え方は、より元慰安婦に寄り添う形。政府による慰謝料が望ましいのは当然だが、元慰安婦たちの年齢を考えると、その闘争には時間がかかり過ぎる為、今現在、生活が困窮している慰安婦に対しては、基金からの慰謝料がベターな選択であるという考え方である。

実際、受取った元慰安婦の方たちには、感謝もされたようだ。首相からの手紙に涙を流して喜んでくれた人もいた。ただ、 挺対協 を始めとする、市民団体、反日ジャーナリズムには受け入れられず、当の元慰安婦たちもお金を受取りたくても受取れない状況が生まれた。

大沼さんを始めとした、基金の方々の行動は立派で、より現実的なものだったと思う。ただ、広報活動がうまくいかなかったり、人材は豊富だったが、組織としてはあまり上手くいかなかったという問題点もあったようだ。

秦さんや、吉見さんなどの学術的な研究は必要だと思う。また、人権問題やフェミニズムの問題に集団で声を上げる市民運動も必要だろう。ただ、自分の正義は置いといて、それぞれに境遇の違う、元慰安婦の方々一人一人に寄り添おうとする、大沼さんのような考え方の人もいるのだな、ということを知れた。

もの凄く根気のいる損な役回りだと思うが、大声をださない末端の地道な活動が、本当の意味での戦後補償問題を解決する道なのではないか、と思った。