サル化する人間社会

霊長類学

著者は京都大学の理学博士、山極寿一先生。専門はゴリラの研究。

霊長類の生態を知ることにより、人間を考える。

もともと人間学を専攻していたそうだが、人間の本性を学ぶためには、進化の過程を知る必要性を感じ、霊長類学に変更したそうだ。

霊長類学というのは京都大学の人類学者今西錦司さんによって1948年に創始され、ニホンザルの研究からスタートした。

だから、日本はこの分野では先駆者といえるわけだ。

霊長類の研究は当初は餌づけで行われていたそうだが、いまはヒトがサルやゴリラについていく人づけで行われている。サルやゴリラの動きについていくのは大変なことらしい。

 

ゴリラの家族愛

山極さんはこの本を通して、終始、家族という単位の大事さを訴えている。

人間の遺伝子に近いとされるニホンザルチンパンジーは家族を持たず、オス、メス入り乱れた、20匹ぐらいの集団で暮らし乱婚的だ。

そして、メスの交尾の順番や餌の優先順位など、集団の争いを避けるために、明確なヒエラルキーが存在する。

基本的に個人の利益を優先する為、ギスギスしているそうだ。

そして、一歩集団を離れてしまえば、群れに対しての執着、愛着はない。

それに対して、ゴリラは1頭のオスと複数のメス、そして子供たちで暮らす家族の集団だ。

家族間での争いはなく、じゃれ合ったりなどの遊びをしながら社会性を学んでいく。

他の家族との争いはあるが、基本的に家族愛は皆強い。

オスを巡るメス同士の争いもなく、交尾もメスの方から誘って成立するので、レイプのように強者のオス側から強制的に行われることはない。

 

そして人間は

人間は家族を持ち、仕事や地域の人たち、他の人たちとの社会をもつ。

サルの世界とゴリラの世界を合わせ持つのだ。

家族を持つことでいたわりや愛、帰属本能をもつと山極先生は説く。

そして、それには食というものが大切なのだという。

ゴリラは家族で一緒に食を共にするそうだ。

食を共にすることで、共感を養う。

しかし、人間は家族がいても、食を一緒にすることが出来ないことが増えている。

そのことが家族の崩壊を産み、人間社会がサル化していくのではという危惧を提示している。

サルは集団ではあるが、それはあくまで弱いから集まっているだけで、基本的には個人主義実力主義の集団だ。

明確なヒエラルキーが存在する。

人間は元来優しさを備えている生き物なので、そういう世界は向いてないのではないか、という提示をしている。

僕もこの山極先生の意見に深く賛同する。

かといって悲観的には捉えていない。

人間はかつては王がいて、貴族がいて、平民、奴隷となっていた。

しかし、今は民主主義という平等性を生み出している。

確かに家族の崩壊は悲しむべきことだが、今後は映画の『万引き家族』のような、血のつながりはなくても、愛情はある疑似家族が生まれるのではないかと思う。

 

 同性愛

ゴリラのようにハーレム化した世界は、あぶれてしまうオスが増えるのではないかと思う。

そこに関しては触れていなかったので、今後調べてみようと思う。

尚、オスだけの同性愛集団はいるそうだ。

この集団もひとつの疑似家族なのではないか。

山極先生は、同性愛というのは共感力や遊びの部分がないと出来ない、と考えているというのも興味深い考察だった。