『人生の教養が身につく名言集』出口治明著

「巨人の肩に乗っているから遠くを見ることができる―」ベルナール・ド・シャルル著

過去の偉人達の残した研究結果などを『巨人』にたとえ、その力を借りればより広く、より遠く、より深くまで世界を見ることができる。

この言葉から始まり、ライフネット生命の創業者であり、無類の読書家である出口さんが、人生を楽しく生きる方法を教えてくれる。出口さんは『教養』を堅苦しいものではなく、人生を愉しくするツール、視野を広げ、選択肢を増やしてくれると捉えている。

この本は偉人達の肩に読者を乗せて、出口さんが添乗員となり、古今東西の世界を案内してくれる、そんな本である。

「君たち人間ってのは、どうせ憐れなものであるが、ただ一つだけこいつはじかに強力な武器をもっているわけだよね。つまり笑いなんだ」マーク・トウェイン

笑いはパワーである。嫌なことや辛いことがあっても、友だちとゲラゲラ笑って、ぐっすり眠れば悩みの7割は解消できると出口さんは語る。

そして、仕事や公式の場では「真面目」が尊ばれるが、真面目に考え過ぎるのは不幸の元、イノベーションの生まれる素地は遊び心から生まれると説く。

「不思議なものは数あるうちに人間以上の不思議はない」ソフォクレスアンティゴネー」

ギリシャの3大悲劇の詩人ソフォクレスの書いた物語のアンティゴネーのセリフ。2500年前のこの作品でも、人間の不可解さを描いている。人間の脳は1万3千年近く変化していないそうだ。

出口さんは人間は皆そこそこに善良で、そこそこにずる賢いと語る。

人間関係を結びつけているのは利害関係で、結局人間は自分や自分の身内がかわいい。本当に困った時に助けてくれる人はほとんどいない、と考えておいたほうがよい。

「まさかのときの友は本当の友」というが「まさかのときの友」に出会えたらラッキーぐらいに考えておいた方が良い、と説く。損得を超えた美しい友情はめったに存在しないということだろう。

「困難なことは自分自身を知ること、容易なことは他人に忠告すること」タレスギリシャ列伝』

人は自分自身のことは分かっているようで分からない。気の合う友人と付き合うだけでなく、あえて自分に苦言を呈してくれる人を鏡のように思うと、自分自身が客観的に見えてくる。

自分に気の合う人とばかり付き合うと、イエスマンばかりになり、閉塞的になってしまう。

「古典を読んでわからなければ自分をアホだと思いなさい。新著を読んで分からなければ、著者をアホだと思いなさい」高坂正堯

出口さんの京都大学の恩師のことばだそうだ。古典が現代人にとって分かりづらいのは自分の勉強不足で、時代や背景がを知らないから。

逆に分かりづらい新著は著者の説明不足やロジック不足である。人は十分に納得していることであれば、シンプルにわかりやすく、小さな子供にも伝えることができる。(これは池上彰さんも言っていた)

出口さんは話す時、本を書く時、「シンプルでわかりやすい」を第一に心がけているらしい。シンプルにするには、枝葉を落としコアの幹だけを残す。考えるとは何が「枝葉」でなにが「幹」かを見極めることだ、と説く。

「専門のことであろうが、専門外のことであろうが要するに物事を自分の頭で考え、自分の言葉で、自分の意見を表明できるようになるため、たったそれだけのことです。そのために勉強するのです」山本義隆

学ぶとはインプットとアウトプットがセットになっている。知識を得、それを咀嚼して自分の言葉で言語化する。

「年齢の傲慢さは許し難い。若い人に教えを乞うべき」エドマンド・パーク

パークはフランス革命を徹底的に批判した保守主義者。パークの予言どおり、フランス革命はおかしな方に進んでしまう。彼が重視したのは伝統と経験。真逆の内容ともいえるこの発言。伝統と経験はもちろん強力だが、新しいものを否定してはいけない、という戒め。温故知新。

「金銭は肥料のようなものであって、ばらまかなければ役に立たない」フランシス・ベーコン

「悔いなし。遺産なし」が出口さんの信条。20歳の時から変わらないらしい。遺産など残さないで、好きな本、旅、人に使ってしまおうという考えだそうだ。やりたいことの為に我慢してお金をためるなんて、もったいないと説く。

お金を使うとそれが養分となって自分にとって大切な何かがスクスクと育っていく。そう考えた方が楽しいですよとおっしゃった。

●感想

出口さんの著作は本当に好きで、分かりやすく腹落ちして、さらに新しい世界が開ける高揚感を味わえる。講演会も何度か行かせて頂き、人柄も穏やかで素晴らしい人だと思う。出口さんと同じ日本人で同時代に生きられたのは本当にラッキーだ。

出口さんがもっと名誉欲が強くて、政治家になってくれたら、日本はもっと面白く素敵な国になるだろう。

でも、それは100%ないので、『愚公山を移す』のように出口さんの著作を読んでそれを実践する人が少しづつ増えればいいなあと思う。