ファクトフルネス

この本を一言でいえば『無知の知』である。著者はまず、現在の世界で起きていることの統計をクイズ形式で読者に問う。実際に医者や、マスコミ、大学生など、世界中の知識人と言われている人たちにそのクイズを訪ねてまわったという。三択問題なのでチンパンジーでも33%の確立で当たる問題がどれも20%程度の正解率だったという。問題の傾向は全て世界は悪くなっているだろうか、良くなっているだろうかの問いである。総じて世界の知識人は悪くなっていると思い込んでいたが、実際は少しづつ良くなっている。データーをしっかりと見れば明らかに分かることである。どうして、知識人であればあるほど、そんなに間違えてしまうのか。それを著者は人間のもつ10個の本能から来るものだと説明する。

この10個の本能、いわゆる思い込みを捨て、常に新しい情報、データーを意識していこうという本である。

10個の本能とは、1分断本能 2ネガティブ本能 3直線本能 4恐怖本能 5過大視本能 6パターン本能 7宿命本能 8単純化本能 9犯人捜し本能 10焦り本能 である。

1分断本能

人間は二つのカテゴリーに分けたがる。それは分かりやすいから。しかし実際はそんなに極端なカテゴリー分けはできず、二つの間の中間層がかなりの数だけ存在する。それは各国でもそうだし、世界全体を見てもそうである。サッカーで例えれば、ある国に、強いチーム、弱小チーム、そしてその間に普通のクラブチームがたくさん存在する。そしてナショナルチームもブラジルなど強豪国もあれば、ワールドカップにすら出れないところもあるし、その間の中間国が無数にある。著者のハンスロスリングは、分かりやすいように世界を4つのカテゴリー分けをする。レベル1は日当1ドル、レベル2は日当4ドル、レベル3は16ドル、レベル4は32ドル そうすると、世界総人口70億人 のうち レベル1が10億人、レベル2が30億人、レベル3が20億人、レベル4が10億人という結果がでた。これは中間層がかなりの数を占めているということ。それを更に歴史という時間軸で見てい行くとここ数十年で圧倒的にレベル2、3に属する人たちが増えが事がわかる。

つまり、分断本能とは世界を単純に極端な二分化をしてしまう。この本能を抑えファクトフルネスを高めるには、大半の人たちがどこにいるか知ること。所得カテゴリーで言えばレベル2、レベル3に属する人たちが世界の7割近く存在する。

平均値だけでなく、分布図でみる。平均値だけの比較だと分断が見えるが、分布図での比較だと重なりが多くみられる。例えば、国でレベル分けしたとしても格国で所得の開きはあり、重なりある層も存在する。いちがいにかの国は貧しい、かの国は裕福、とはいえない。

そして、最上位、最下位等の極端な数字の比較に注意するということ。

また、上からの目線だと、どれも同じように見えてしまい、下位グルーブの違いが分からない。結果、世界を単純化してしまう。

2 ネガティブ本能

ネガティブなニュースの方が圧倒的に耳に入りやすい。それは人の注目を集められるから。良いニュースは話題にすらならない。しかし実際は、話題にならない小さな進歩が世界中で起きている。それはデーターを見れば明らかである。

我々はネガティブ本能を抑えるために、『悪いニュースの方が広まりやすい』ということに気づかなくてはいけない。また、悪いニュースが増えたということはそれだけ、かつてはニュースにもならなかった悪いことに対して監視の目が働いているともいえる。

そして人々は過去を美化したがり、国家は歴史を美化したがるという側面は頭に入れておいたほうが良い。

3 直線本能

グラフは真っすぐに進んでいくという思い込みを捨てる。実際には直線に進むほうが珍しい。多くのデーターは直線ではなく、S字カーブ、すべり台の形、コブの形、あるいは倍増する線のほうが当てはまる。

4 恐怖本能

人はみな恐怖に包まれると、判断能力が鈍る。世の中のすべての情報を学習できる人はいない。我々はいろいろな情報を取捨選択している。そのなかでも人の頭にすんなりと入ってくるのが、物語形式で伝えられる情報である。そしてそれは劇的で在るほど、人の関心を引きニュースとなる。ドラマチックに恐怖本能を操ることをメディアは熟知している。

恐怖本能は進化の過程で人間が培ったもの。ヘビ、クモ、針、暗闇、炎、など、これらの災害に敏感に反応することで、人間の先祖たちは生き残ってきた。だから。これらのワード、映像に敏感に反応してしまう。

リスクは危険度(質)×頻度(量)で決まる。確立を求める正しい計算が必要である。結局恐怖は無知から来ることが多い。しかし、いつだって冷静にいるのは難しい。もし、恐怖でパニックになってしまったら、パニックが収まるまで大事な決断は避ける。

5 過大視本能

ただ一つの数字がとても重要であるかの錯覚に注意する。

過大視本能を避けるために

・比較する

一つしか数字は間違いの元だと肝に銘じる。ほかの数字と比較し割り算をする。

・80:20ルールを使う

項目が並んでいたら最も大きな項目だけに注目する。多くの場合小さな項目は無視して差し支えない。

・割り算をする

割合を見るようにする。国や地域を比較するときは「ひとりあたり」に注目する。

6 パターン化本能

ひとつの集団のパターンを根拠に物事が説明されていたら、それに気づく。

パターン化は間違いを生み出しやすいので、間違ったパターン化をしないように努めよう。

パターン化を抑えるには分類を疑ってみるとよい。

・同じ集団の中にある違いを探す。より小さく正確な分類に分ける。

・違う集団のあいだの共通項を探す。もし見つけたら分類自体が正しいか問い直す。

・違う集団の間の違いも探す。

過半数という言葉に気をつける。51%なのか99%なのか

・強烈なイメージに気を付ける。それは例外かもしれない

・自分以外はアホだと決めつけないようにする。好奇心をもち、謙虚になって考える。

7 宿命本能

人や国や宗教文化を変わらないもの、宿命的なものと決めつけないようにする。

一見変わってなさそうな事でも、ゆっくり少しづつ変化は起こっている。

・小さな進歩を追いかける。毎年少しづつ変化していれば、数十年で大きな変化が生まれる。

・知識をアップデートする。賞味期限がすぐに切れる知識もある。

・祖父母の話を聞く。価値観がどれ程変化しているかわかる。

・文化が変わった例を集める。

8 単純化本能

ひとつの視点だけでは世界を理解できないと知ること。

純化本能を抑えるためにはトンカチだけでなく、様々な道具を使うように心がける。

・自分の考え方を検証する‥自分の肩入れしている考え方が正しいことを示す例ばかり集めないようにする。自分と意見の合わない人に考え方を検証してもらい、自分の弱点をみつける。

・知ったかぶりをしない…自分の専門以外のことは知らないことがあることを認める。

・トンカチばかり使わない…ひとつの道具が全てに使えるわけではない。違う分野の人たちの意見に耳を傾ける。

・数字だけに頼らない。

・単純なものの見方と単純な答えに警戒する。過去の独裁者は単純な理想論で残虐な行為を正当化した。複雑さを喜んで受け入れる。

9  犯人捜し本能

誰かが見せしめとばかりに責められていたら、それに気づく…誰かを責めると安心して、考えることをやめ、真の原因がつかめなくなる。誰かを責める癖を断ち切る。

犯人ではなく、原因を探す。

メディアは中立的ではないし、中立的でありえない。中立性を期待するべきではない。

 

10 焦り本能

「いますぐに決めなければならない」と感じたら、自分の焦りに気づくこと。今決めなければならないようなことはめったにない。

・深呼吸する

・データーにこだわる。

・決して最高のシナリオと最悪のシナリオだけではない。

・過激な対策に注意する…大胆な対策には副作用がある。地道に一歩一歩進みながら、効果を測定する。ドラマチックな対策よりもたいていは地道な一歩に効果がある。