『脳には妙なクセがある』池谷裕二著

脳研究者で薬学博士でもある池谷先生の、脳についての面白本。

先生は「生きる意味を考えるプロセスが生きる意味」と考えているそうだ。そして、どうせならその探求をどうせなら楽しく笑顔で問い続けたいと願っている。

この本はそんな思いから生まれたそうだ。

そのとおりに全編がポジティブに楽しく書かれている。

印象に残った内容を列挙してみる。

 

母親の育った豊かな環境が子供に遺伝される。(8章 恋し愛する、より)

ネズミを回り車やトンネルなどの置かれた豊かな環境で育てると、閑散とした場所で育てたねずみより、迷路を解く能力が高くなるらしい。

これは「海馬」の機能が向上する為だそうだ。

そして、この能力は一生持続する。さらに驚くことに、子供たちにも能力が引き継がれる。子供たちは豊かな環境を経験していないにも関わらず…。

しかし、3代目にはこの能力が引き継がれない。2世代目までに限るそうだ。人間での検証はされていないので、まだ、何とも言えない段階だそうだが、面白い実験結果だと思う。

 

ヒトは映像を見せられる説得に弱い(9章 ゲームにはまる、より)

アメリカの大学で3つの説明のうちどれが一番説得力があるか、という実験が行われた。

解説1 説明文のみ

 

解説2 説明文+MRIの脳画像データ

 

解説3 説明文+MRIのデータを棒グラフにした図

説明文は同じ内容で、デタラメな学説だそうだ。

結果は解説2が一番説得力が高いと評価された。

この実験により、人は画像データを見せられると、うその情報でも信じ込みやすい、ということ。そして、プレゼン等では画像を頻繁に用いる方が説得力が増すと考えられる。

 

「人の目を気にすること」が社会性の根幹をなす。(10章 人目を気にする、より)

ヒトは社会集団を作る動物。「社会性、集団性」の定義は「抑制」である。

一人のときにできる行為が、人前でできなかったとすれば、それは社会的認知である。

海水魚のホンソウワケベラは他者がいることで、一人善がりな行動を控える。おいしいと思う粘液を食べる率が、一人の時に比べ、二人の時の方が半分に減った。

さらに「エビ」と「サメ肉」を同時に与えた場合、1匹の時はエビを好んで食べたが、二匹でエサを分け合う場合では、エビを食べる率が減って、よりサメ肉を選ぶ。

ホンソメワケベラの「協調性」を超えた、「思いやり」がかいまみえる。

 

五感のうち嗅覚だけは「視庄」を通らずに大脳皮質や扁桃体に送られる(12章 フェロモンに惹かれる、より)

香りの刺激は大脳に直接届くそうだ。それは眠っている時でさえも。

これがアロマセラピーの心理効果を高める理由である。

アロマセラピーの効果は男性より女性に強く効く調査結果がでている。

また、コーヒーの香りを嗅ぐと人に親切にしたいという効果が現れるそうだ。

 

センスキャム―首に吊り下げるデジタルカメラ―自動記録装置(勉強法にこだわる、より)

ビルゲイツも惚れこんだというこの自動記録装置は、日常的なシーンを毎日2000枚の写真として保管される。

ビジネス、娯楽としてだけでなく、認知症治療への応用が期待されている。

記憶は想起することで、強化される。

 

メタファー(喩え表現)は受け手の脳を活性化させる(20章 おしゃべり、より)

基本的にコミュニケーションの主導権は受け手側にある。メタファーは発信側が主導権を持つ可能性を秘めている。

実際、メタファーを聞いた脳は左脳の言語野だけでなく、下前頭回などの広い範囲が活性化する。

 

意志は脳から生まれるのではない。周囲の環境と身体の状況で決まる(22章 不自由が心地よい、より)

人は自由に何かを選択して生きていると思いがちだが、実際は思考癖や環境因子によって、反射的に反応している。

全ての自分の判断は脳の中では意識をする前に、無意識で決まってしまっているそうだ。そして、無意識の自分こそが真の自分の姿である、と池谷さんは珍しく断定している。

人は理由を付けたがるが、自分の中ではとうに決まっていて、理屈は後付けである。

どんなに悩もうが、無意識の自分では考えが決まっている。

ただ、この自動判定装置が正しい反射をしてくれるか、どうかは、過去にどれ程よい経験をしてきているかに依存している。

だからこそ、好い経験を積むこと、良い言葉に出会うこと、運動をして身体を気づかうことが大事なのだろう。

 

レミニセンス現象~睡眠によって、記憶が強固になる。(23章 眠たがる、より)

記憶が睡眠によって強固になる実験データが数多くある。

特に夜寝る前にインプットした記憶は、朝になって、定着しやすい。

学習も一夜漬けより、コツコツ勉強する方が、睡眠を何回も経ている分、長期に記憶が定着するらしい。

また、何かを暗記する最中にバラの香りをかぎ、さらに睡眠中にバラの香りを嗅ぐと、翌朝の点数がアップするというデータもあるそうだ。

 

未来を想像する時に「前運動野」が活発に活動する。(25章 瞑想する、より)

未来を考えるとき、身体の運動をプログラムする大脳皮質「前運動野」が活性化する。

スポーツ選手のイメージトレーニングはこういう効果を狙ったものである。未来を思い描くことによって、身体や脳が準備をはじめる。

脳がふけること、それは夢をもてなくなることである。