『進化しすぎた脳』池谷裕二著

テレビでもお馴染みの薬学博士の池谷先生がニューヨークの高校生を相手に脳の講義を行った時の内容をまとめた本。4回の講義に分けられ、素人にも分かりやすく脳のメカニズムや不思議さを教えてくれる。

特に印象に残った点を列挙してみる。

 

脳の機能は局在化している。

脳は他の臓器のように一つの役割を担っているのではなく、各部位によって役割分担されている。視覚、聴覚、触覚等。そしてさらに各部位のなかでも役割分担がされている。例えば聴覚で、高音に反応する場所、低音に反応する場所等、細かくヘルツ数によって分けられている。

 

人間は脳をうまく使いこなせていない

そして人間の脳は必要以上に進化しすぎていてうまく使いこなせていない。それは体の機能の問題だそうだ。体が脳に刺激を与えている。もちろん脳が体に指令を与えているが、双方はお互いに刺激を与えあっている。例えば人間の腕が3本あったら、脳はまた3本目を動かす部分が働くようになる。脳と体は密接に関係している。

 

脳と心

心とは何か。脳の部位、前頭葉を損傷してしまった人がいる。その人は以前は温厚な性格の持ち主だったが、事故の後は思いやりがなくなり、だらしなく、キレやすい性格になってしまったそうだ。多くの脳科学者はこの前頭葉に心というものがあるのではないかと考えている。

 

言葉の発明が脳に与えた刺激

そして、言葉の発達が脳に強い影響を与えた。言葉はコミュニケーションの手段、伝達の為の信号という、実利的なものと、抽象的思考をするための道具、考える為のツールにもなる。池谷先生はこれが心の正体ではないかと考えている。心が汎化を生み出し、それにより応用力、環境適応力が高くなる。なかなか記憶が定着しないのはこの汎化を行っているから、だそうだ。コンピューターのような正確無比さでは、応用が効きにくい。

 

人は進化を止め、環境を進化させた

人間は進化を止めた、というのも、面白い考えだった。ヒトは環境に合わせて体を変えるのではなく、環境を支配して自分の都合で変えている。メガネ、車椅子、都市、インターネットなど。

 

この他にもより専門的な化学物質や、脳の部位を紹介して、脳の不思議さを面白く解説してくれる。脳はまだまだ、未知の部分が多いが、より人間が人間足るゆえんの秘密が隠されている気がした。